ユウ(18)……ティエドール(芸術家)の息子。高校三年。将来はティエドールの秘書になる予定。
ティキ(26)……シェリルの弟。ティエドールの助手歴半年。ユウの扱いに困ってる。 「うぉぁああああ?!」 ティキの叫びがティエドール邸の静かな朝をぶち壊した。 叫び、ベッドから飛退いたティキの視線の先には、先程までティキが眠っていたベッドがあり、その布団にはティキがいないにもかかわらず人が寝ているような膨らみがある。 「服、服、」 混乱する頭を落ち着かせつつ、急いで床に落ちている下着と洋服を拾って身につける。下着を穿き、パンツを穿いたところでベッドから布団が落ちた。 「煩い……」 「煩い、じゃねぇ!何で人のベッドで寝てんだ?!つか、俺何で裸だったんだよ?!」 布団のふくらみの正体はユウだった。ティキの立てた音が煩かったらしく眉間に皺を寄せ、苛立たしげに頭を掻きながらベッドに座る。 「安心しろ。勃たなかったからヤってない」 「はっ?!」 「…部屋で寝なおす」 「ちょ、待て、ユウ……」 ティキが引き止めようと声を出すがユウはさっさと部屋から出て行ってしまい、部屋には未だ上半身裸のティキが一人残される。 「……アイツ、何する気だったんだ」 ユウの言葉からある程度想像できてしまったのだが、それでも信じたくない。起きて裸だった時点で想像した内容でほぼ当たりだと思うのだが、絶対に受け入れない。 「…あまり酒飲まねぇようにしよう」 記憶が飛ぶまで飲むのが好きなのだが、またこんなことがあったら堪ったものではない。 モモとクラックを飲みに誘っても、飲酒は顔が赤くなる程度で留めておこうと誓ったティキだった。 「何だよアイツ……」 ティキの叫び声とどたばたという慌ただしい音に起こされたユウは、自室に戻ってくるなりベッドに横になってむすっと口を尖らせた。 人が一緒に寝ているのを見るなり叫ぶなんて、あんまりだ。 昨晩、ユウが作ったうどんを食べたティキは飲みに行ってくると言ってどこかへ出かけていった。そして、二時過ぎになって飲み友達だという男二人に連れられて戻ってきた。ティエドールやマリは既に眠っている時間で、メイドも帰っていた為、出迎えたのはユウだ。 本当に知り合いなのかと疑いたくなるくらい容姿のレベルが離れすぎた男二人に支えられたティキは完全に酔っ払っており、殆ど眠っているような状態だった。 ティキを連れて来てくれた男二人に礼を言ってティキを屋敷の中へ入れ、重くのしかかってくる体に四苦八苦しながらティキを部屋まで運んだ。 ティキは少しも目を覚ます気配がなく、ベッドに横にすると完全に寝息を立ててしまった。 今朝、目を覚ましたティキが裸だったのはその後のユウの行動が原因だ。 ティキを部屋に運び、そして目の前で眠るティキを見て、ユウの頭に既成事実と言う言葉が浮かんだ。正直、男同士でその言葉が使えるのかどうかは怪しいところだが、ユウは酔っ払っているうちに自らを抱かせてしまえばこっちのものだと考えたのだ。 これだけ酔っているのなら、今夜の記憶は曖昧だろう。どうやって帰ってきたのかも覚えていないはず。それならば、帰ってきた後に介抱していたユウをティキが襲ったと言えば、騙されるのではないか?そう思ったのだ。 思い立ってからのユウの行動は早く、ティキの衣類を肌蹴させ、己の衣服も乱れさせながらティキの股間に手を添えた。 他人のモノに触れたことなんてなかったが、同じ男なのだからどうやれば勃起するのかくらいはわかる。 少し刺激を与えてやれば簡単に……と、ユウは思っていたのだが、実際はそうもいかなかった。 飲みすぎたからか、ティキのモノはユウが何をやっても勃たなかったのだ。 初めての性交渉がこんな形か、だが仕方がない。そんなことを考えながらもドキドキしていたユウの思いは簡単に打ち砕かれ、とても惨めな気持ちになった。 そして、腹いせにティキの衣服を全て剥ぎ取って抱きしめるように一緒に眠ってやったと言う訳だ。 ユウがティキの隣に横になった時、ティキは酔っ払いながらも縋りつくユウに応えるように腕をまわしてくれたのに、朝になって目が覚めてみればあの叫び声。状況に混乱するのは仕方がないとは思うが、もう少し違う反応をしてくれてもよかったのではとも思ってしまう。昨日部屋まで運んでやった礼の言葉も言われていない。 何だかんだで三時半までティキのモノと格闘していたのでとても眠い。 「……そういや、今日飯作るの俺……いいか」 「あれ、何でアンタが飯作ってんの?」 ユウが部屋からいなくなってから約一時間。キッチンへやってきたティキの目に入ったのは料理をしているマリだった。 「ユウが部屋から出てこなくてな、恐らく寝ているんだろう」 「寝てる?」 起きているはずだが……と思ったのだが、そう言えばティキの部屋から出ていく時に寝なおすと言っていたのを思い出し、本当に寝てしまったのかと呆れる。 平日はメイドが定時に食事を作るが、休日はメイドがいない為家の誰かが食事を作る。今朝はユウが当番のはずだった。 「…あのさ、一つ聞いていいか?」 「何だ?」 「ユウって、彼女とかの話したことあるか?」 「ないな。いないと思うが」 「……ふーん…ちなみにさ、…あー、やっぱいいわ」 それ以上聞かず、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して一気に飲む。 ホモなのかとは流石に聞けない。ユウがマリに対してそんなそぶりを見せたことがなければ、ティキがユウに気がある風に思われる可能性もある。 「おはよう」 「あ、おはようございます」 「おはようございます」 良い匂いがしてきたからか、ティエドールがキッチンへやってきた。 ティキとマリが挨拶をすると満足げに頷き、だが何かに気づいたようにあたりを見回して首を傾げる。 「ユー君は?」 「まだ寝ているみたいです」 「おやおや。まあ、昨日遅くまで起きていたようだからね。ミック君、一応朝食を食べるかどうか聞いてきてくれるかな?」 「俺が?行ってくればいいじゃないですか。親子のスキンシップ」 「寝起きのユー君は機嫌が悪いからハグする前に殴られてしまうよ」 「………」 「行ってらっしゃい」 「…はい」 起こさせに行くならばそんな情報を与えないでほしかった。 手を振るティエドールに小さく返事をし、ユウの様子を見に部屋へ向かう。 「ユウ?」 部屋の前で名前を呼び、コンコンとユウの部屋のドアを叩くが、中からユウの声は聞こえない。 まだ寝ているようだと報告すればいいかとドアから離れようとしたティキだったが、ふと触れたドアノブに鍵がかかっていないことに気づき、改めてドアノブに手をかける。 「…入るぞ」 中に入ってベッドを見ると、布団にくるまったユウが気持ちよさそうに眠っていた。 「ユウ、おい」 ユウの頬に手を当て、優しく叩く。すると、ユウは小さな声を漏らしたが、ティキの手から逃げるように布団の中にもぐってしまった。 「飯、いらねぇの?」 「……ぃ……ぅ」 「いう?」 布団の中から聞こえてきた言葉に首を傾げ、殴られる覚悟を決めてユウから布団を奪う。 「んん……」 流石に今の時期に布団がないのは寒いらしく、ユウがぎゅっと目を閉じたまま布団を探して手を動かす。しかし、布団を探し求めていたはずの手はベッドから落ちかけていた枕を掴むとぴたりと動くのをやめた。 「起きねぇの?」 「…ぅ」 髪を梳きながら話しかけてやると、ユウが枕から手を離して声のする方―ティキの方だ―へ手を伸ばしてきた。そして、ティキの顔に手が当たると、両手でティキの顔を探りティキの頬を叩いた。ぺち、と可愛らしい音がする。痛くもなんともない。 「うるしゃい……」 「………」 日中のものとは全く異なる可愛らしい様子に、ティキは思わず緩む頬を引き締め、先程奪った布団をユウにかけ、静かに部屋を出た。 「お帰り、ユー君なんだって」 「いらないそうです」 「そっか。じゃあ私達で食べてしまおう。マー君、頼むよ」 「はい」 二時間後、ティキは朝食を食べ損ねたユウに思い切り頬を叩かれた。 |