Tenha cuidado o que o senhor diz


ユウ(16)…高校一年生
ティキ(24)…歌手

※Nos ficamos o amigo de e-mailの続き。

「ネット通話……」
ティキとメールのやり取りを始めるようになってしまってから一月。ついついティキのメールに返信をしているうちにそれが日課になってしまったユウのもとへ、ティキが思いもよらないメールを寄越してきた。
どうやら、メールだけでは満足できなくなったらしく、ネット通話をしたいと言いだしたのだ。
ティキが言うにはネット上で相手のIDを知っていればすぐに通話でき、しかも国際通話でも料金はかからないのだという。
メールアドレスに書いてあったアドレスをクリックしてみれば、ユウが以前サチコから聞いたことのあるサイトが出てきた。あの時はよくわからなかったが、ネット通話用のサイトだったのだと今になって知る。サチコに聞いたのは半年ほど前の話だ。

「マイクが必要なのか…」

ティキには考えてみますと返信し、教えてもらったサイトを熟読していく。いまいち仕組みはわからなかったが、取り敢えず無料で通話もでき、しかしその為にはヘッドセット等の通信機器がなければいけないことは理解できた。
ヘッドフォンはあるがマイクが無いので通話できない。
これは無理だな、と溜息を吐いてサイトを閉じると、ユウはパソコンの電源を落とした。
最近は十時を過ぎたらメールしないようにしている。ティキも時差を考えてユウが寝る時間なのだと理解しているらしく、その後はメールをしてこないようになった。一応はユウのことを考えてくれているらしい。

「……ネット通話…」

長い髪をまとめて横になると、ユウは改めてティキから提案されたネット通話のことを考えた。
正直、できるわけがないと思う。通話はある程度できるだろうが―何せ、この一カ月間のメールは全て日本語で行われており、ティキの日本語は恐ろしいほどに上達している。ユウの英語は相変わらず進歩が無いが―奈何せん、相手は人気歌手だ。ユウは学校後一定の時間暇になるが、ティキの休みは不規則。自分の都合に合わせて返信できるメールだからこそ、今までやりとりを続けられたのだ。

「何で無理な事をここまでやりたがるんだか…」

自分のような一日本の男子学生など気にしなくていいのにと思う。ティキにはファンが沢山いるのだから、そのファンの中で気に入ったこと交流すればいい。
メールをやり取りしている手前、感想等言った方がいいだろうと二週間前に出たティキの新曲も購入して聴いたが、それは聴いておかなければ困るからで、聴きたいから聴いているのではない。すでに歌詞もその意味も把握してしまう位聴き直しているが、このメールのやり取りが無くなれば買わなくなると断言できる。いい曲だとは思うが、洋楽はユウの趣味ではないのだ。

「……面倒臭い」

目を閉じれば、すぐに眠気が襲ってきた。









「あら、買わなくてもヘッドセットならうちに腐るほどあるわよ」
「ホント!?ユウ!リナリーから貰えばいいっちょ!」

余計な事を!

ユウは目の前で笑うリナリーを見て頭を抱えた。
昼休み、いつものようにサチコがユウの席までやってきて一緒に食事をしようと弁当を取り出したところでリナリーがやってきた。リナリーは隣のクラスの女子で、サチコの友人だ。ユウが二人きりでリナリーと会うことは先ずないが、サチコがその場にいると自然と三人で行動することになったりもする。
今日もそのパターンで、ユウの席の前で弁当を持っているサチコを見てリナリーが「一緒に食べてもいい?」と言ってきた。サチコがリナリーのお願いを断るわけもなく、三人で食事をしていると言うわけだ。
最初は何事もなく授業のことや部活のことに付いて話をしていたのだが、ふと思い出したようにサチコがティキとのメールはどうかとユウに聞いてきた。
別に大したことはないが、ティキがネット通話をしないかと提案してきている。そのことをサチコに話すと、リナリーが話に乗ってきた。サチコからあのティキがユウとメールのやりとりをしていることを聞いていたらしい。
無料なんだから通話してあげればいいと言う女子二人に通信用の道具を買うのが面倒だと話したところ、上記の言葉がリナリーから放たれた。

「うちの兄さんが無駄に作っちゃうのよね。一つ作るでしょ?そうすると、それが駄目な点を改善しようってもう一つ作って、それの駄目な点も……って。作ったのをばらして作りなおせばいいのに作ったものはそのままにしておくから、家にどんどん増えていっちゃうの」
「リナリーのお兄さんって、科学者じゃなかったっけ?」
「ええ。薬品を使った実験もするし、ロボットも作るわ。好きな事は何でもするのね」
「へー、凄いっちょ…オイラ、そんな才能ないから…」
「で、神田?ヘッドセットでしょ?明日持ってきてあげるから、使ってよ。兄さんが作ったものだけど、性能は売ってるもの以上だから」
「金払わねぇぞ」
「いいわよ。むしろ、こっちがお金払って何とかしたい位だから」

性能がいいとはいえ、リナリーの言い方では不用品を押しつけられている感が強い。
まあ、金を払わずヘッドセットが手に入ると言うのなら貰っておこうとリナリーに頷くと、リナリーはにっこりと笑って口を開いた。

「じゃあ、ちゃんと使ってね」









『もしもし?』
「……もしもし」

何をしているんだろうか。
ユウはそんなことを思いながらヘッドセットを付け、パソコンの画面を見ていた。パソコンの画面にはティキの顔が映っており、静止画像などではなく、瞬きをしたりとちゃんと動いている。

『あ、ちゃんとユウの顔が見える』
「…こっちもちゃんと見えてます」
『よかった』

実は、これは二度目の通話になる。
腐るほどあると言うヘッドセットをリナリーの家から貰うことになった次の日、リナリーはどういうわけかヘッドセットだけでなくwebカメラまで持って来た。何でもリナリーの兄がネット通話をするなら顔を見れた方がいいだろうとカメラまで作ってくれたと言うのだ。
貰ったところでティキがカメラを持っていなければテレビ電話などできないのだが、運の悪いことにティキはカメラも準備済みだった。
一度目は通話のみでやっていたのだが、うっかりカメラもあることを話してしまった為、一度通話を終え、もう一度カメラを使って通話しなおすことになったのだ。

「…あの、よく時間ありますね、忙しいのに」
『うん?ああ、今はコンサートの準備もないし、暇だから。テレビは調整してもらってるし。ユウは大丈夫?』
「だ……」

大丈夫じゃないと言いたい。だが、大丈夫じゃないといってティキがしょんぼりするのも嫌で、大丈夫じゃないと言うことができない。

「…今日は暇なので」
『そうか、よかった。駄目な日はメールでいいから』

駄目な日以外は通話する気か?
そう思ったが、何も言わず曖昧な笑みで返す。ユウが良くてもティキが駄目な日というのもあるだろうし、毎日通話すると言うことにはならないだろう。
それから暫くは普段メールでやり取りすることを口頭でやり取りしていただけだったが、ふとしたことで誕生日の話題になった。

『ユウの誕生日は?』
「あー…過ぎました」
『過ぎた?!』

ティキの誕生日を教えてもらい―ユウから聞いたのではない―ティキが今度はユウの誕生日を教えてほしいと言ってきたので、素直に自分の誕生日は一カ月以上前に過ぎたと言うことを伝える。

『いつ!』
「六月六日です」
『どうして教えてくれなかったんだ!』

祝いたかったのにと嘆くティキに気づかれないようにヘッドフォンの音量を下げ、祝えるわけがないとティキを諭す。

「メールのやり取りを始めるより前ですから、教えたところで祝えないですよ」
『それはそうかもしれないけど…決めた。祝いに行く』
「は?」
『次の誕生日まで待つって言うのも何だから、過ぎたとしても祝いに行く。ユウはあとちょっとしたら夏休みだって言ってたな』
「あの、ちょっと、」
『ユウの夏休みに合わせてそっちに行くから、そうしたらユウの誕生日を祝おう』
「別にそこまでしてもらわなくてもい――」
『ああ、もう十時か。明日も学校だろ?今日は嬉しかったよ。また明日』
「…また明日」

一方的に通話を終えられ、ユウの胸に不安だけが残る。
ユウの夏休み中に来ると言っていたが、本当に来る気だろうか?
通話はできたとしても、プライベートで日本に遊びに来る時間はないはずだ。そうは思うのだが、ユウは気が気でなかった。