ティキ(26)……シェリルの弟→ティエドールの助手。 モモ(?)……ティキの友人その一 クラック(?)……ティキの友人その二 移動します ※No Choice前 ※ティキがバイトを始めて半月くらい(No choice作中閑話) ※No choice後 ※I do not let you go前 ※I do not let you go後 ※I don't like it, but I don't dislike it 後 ※No Choice前「俺さぁ、そろそろバイト辞めようと思ってんだよ」 「またかよ?何回目だ?」 「えーっと……?」 指を折りつつバイトを辞めた回数を数えているティキを見て、モモとクラックは互いの呆れ顔を見合わせた。 「そろそろ雇ってくれるとこなくなるんじゃねぇのか?」 「んー…平気だろ。日雇いなんて山ほどあるし」 モモとクラックはティキとはバイトで知り合った仲だった。お互いが知り合ったのはティキの紹介だ。 モモとクラックはティキと出会った時にやっていたアルバイトを今も続けているが、ティキは三カ月に一度、もしくは会う度にバイトが変わっており、流石の二人もティキの辞め癖には呆れ果てていた。 ティキの辞め癖がなければモモとクラックは出会うことがなかったのだろうが、だからと言ってティキの生活に納得するわけではない。 「お前らもバイト変えてみりゃあいいんだよ。楽しいぞ」 「お前なぁ、簡単に言うけど、俺ら今のバイトにたどり着くまでかなり苦労したんだぞ。なぁ?」 「そうだそうだ。お前は眼鏡とって髭そればいいけどな、俺らの悪人面じゃなかなか仕事なんて見つからねぇんだよ。モモなんかその所為で就職無理だったんだからな。大学行ったのに」 「へー」 ほんのりと顔を赤くしてビールを飲んでいるティキには二人の説教をまともに受ける気が感じられず、二人も「駄目だこりゃ」とビールを飲んだ。 このティキ・ミックと言う男は、モモとクラックとつるんでいるのが不思議なくらい整った顔立ち、スタイルをしている。もっとティキに自分の長所を活かせる頭があったならば、芸能界で活躍していた可能性もあるが、如何せん頭が悲しくなるほど悪いのだ。 普通に生活すれば絶対に金に困っても世の女性が助けてくれるし、モモとクラックも僻んで近づきもしなかっただろう。否、神は何故こんな男に奇跡の外見をプレゼントしたのかと妬んだり嘆いたことは何度もある。だが、その見た目からは想像もできないほどの残念な頭を放っておくことができず、こうして今日も一緒に酒を飲んでいる。 「そうだ。今度俺がバイト辞めたらさ、三人でどっかでかけようぜ。旅行しよう、旅行」 「旅行っていっても、どこ行くんだよ」 「海外がいいな。一週間くらいでいいから。それくらいなら休みとれるだろ?」 「まあ…それくらいはな」 「じゃあ決まりな。あーいつ辞めるかなー」 それから一カ月後、ティキからバイトを辞めたから二人も都合をつけてくれと言う連絡があったが、二人が都合をつける前にティキから「長期バイトが決まった」とつまらなそうな声で報告があり、海外旅行は白紙に戻った。 ※ティキがバイトを始めて半月くらい(No choice作中閑話)「へぇ、画家の手伝い!」 長期のバイトをやることになったという連絡から暫く、二人のもとにティキから「飲みに行こう」と誘いがあった。 断る理由もなくティキが指定した居酒屋にやってきた二人は、暫くは酒を飲みつつ他愛のない話をしていたが、ティキから新しいアルバイトの内容を聞いて目を見開いた。 「え、普段どんな格好してんだよ」 「ん?これと一緒」 「嘘だろ。もう少しマシな格好してるだろ」 「雇い主がさ、服装は適当でいいっていうんだよ。いやー、楽で助かる」 久しぶりに見たティキの格好は髭を剃っていること以外はどこも変わらない。アルバイトが決まったと聞いた時には「クソ兄貴が勝手に決めた」と言っていたから―ティキの兄はテレビに出るくらい有名な人物なので―てっきりしっかりしたところかと思ったのだが、そうでもなかったらしい。 「あのクソ兄貴、辛い仕事もあるかもーとか言ってたけど、たまに切れた画材買いに行くだけでそれ以外やることねえし、楽で楽で」 「…あれじゃねぇか?とりあえず楽な仕事に就かせて、三か月以上同じ場所で働かせようって言う…」 「俺もそうじゃねぇかと思う」 たまに買い物に行って金を貰えるなら相当楽な仕事だし、それならティキも長期で働くのではないか。そう思ったクラックがぼそっと隣に座るモモに話しかけると、モモはその意見に深く頷いた。 「あ」 「何だ?」 ふと思い出したように声を出すティキに声をかけると、ティキがニヤッと笑って向かいに座る二人に向かって口を開いた。 「その雇い主の子供がさ、すげー美人なんだよ」 「へぇ、女か?」 「知らね。君つけられてたけど、実際見ても声聞いても男か女かわかんねぇの」 「はー…すげぇのがいたもんだな……」 酔っ払いの言うことなのであてにはできないが、実際にそんな人間がいるならば見てみたい。そんな人間の姿が想像できない己の想像力に呆れつつも感嘆の息を出すと、ついさっきまで笑っていたティキが今度はむっと顔を顰めて口を開いた。 「けどさぁ、なんつーの?自分の顔が良いってわかってるからかもしんねぇけど、お高くとまってる感じで可愛げねぇの。廊下で会っても殆ど挨拶してくれねぇし」 「はは、そりゃいい。お前その子供からそのお高くとまった感じわけてもらえよ」 「ああ、そうすりゃ少しはマシになるかもな」 「あぁー?どういうことだ」 からかい半分の二人をティキがずいっと身を前に乗り出して睨む。だが、眼鏡が分厚過ぎて本来ならばそれなりの凄味があるであろう睨みも効果がない。 「お前には少しは気位が必要ってことだよ」 「き……くらげ?」 「もう寝ちまえ酔っ払い」 ※No choice後「かわったなー、お前」 「もうあの日雇い大好き人間だとは思えねぇよ」 ティキが画家のもとでアルバイトを始めて二か月。一ヶ月半前に飲みをして以降、二人を誘わず、二人が誘っても「屋敷から抜け出せない」と言っていたティキが漸く飲みに参加できることになった。 久しぶりのティキとの飲みに、クラックとモモは以前あれだけ楽なバイトだと言っていたので「楽なバイトなんだろ?」と意地悪を言ってやるつもりだったのだが、指定したバーにやってきたティキを見てぽかんと口を開けたまま何も言えなくなってしまった。 二人を見て嬉しそうに肩を叩いてきたティキは、髭を剃っているのは以前と一緒だが、眼鏡もなく、それどころか彼のファッションだったラフすぎる服装は今どきの若者が着る服に変わっていたのだ。 相変わらず馬鹿らしいところには安心したが、三人で飲み、笑い合っていたティキとはあまりにもかけ離れた姿にモモとクラックの心境は複雑なところだ。前はもう少しマシになってくれればと思っていたが、それは中身の話であり、外見を整えられると逆にこっちが一緒にいにくい。 「んなこと言うなよ。今かなり苦労してんの、俺」 「苦労って、バイトは一緒なんだろ?」 「あれだけ楽って言ってたのに、どうしたんだよ」 「それがさぁ、俺の裸見た雇い主が絵のモデルにしたいとか言い出して、お遣い係兼ヌードモデルになっちまって」 「裸見たって、お前、それ、どういう状況だよ……」 「あ、言ってなかったっけ?住み込みの屋敷、風呂が大浴場しかねぇの」 「あー……」 一瞬、裸を見たというところでどういう状況だったのかと、変なことを想像してしまった二人だったが、大浴場と聞いてほっと胸を撫で下ろした。 「そりゃ大変だなぁ」 「まあ、お前なら仕方ねぇよ。仕事だと思って諦めろって」 ティキは本当に困っているようだったが、これだけのスタイルならば仕方がないと思うし、二人にとってはティキをからかう良いネタだ。両脇からポンと肩を叩いて優しくも残酷な言葉をかけてやると、ティキはチッと舌打ちをしてカクテルを飲んだ。 「くそー…楽な仕事だと思ったのに」 「けど、それなりに充実してんだろ?俺らが誘っても屋敷から出らんねぇって」 「逃げられねぇんだよ。あっちは俺のクセ知ってるから、飲みに行くって言っといて逃げ出すんじゃねぇかって思ってんだ」 給料は良いのに遊ぶ時間がない。ムスッとしたティキが再びカクテルを頼み、溜息を吐く。 「辞めてぇけど、辞めたら今度はクソ兄貴の手伝いだし……」 「兄貴の手伝いって、またかなりいい仕事じゃねぇか……」 「給料安くていいから自由な仕事がしてぇよ……そうだ、お前ら俺の代わりに働くか?」 「いや、お前の代わりは無理だ。お前、見た目で選ばれてるからな」 「そうそう、見た目がな」 「……あーあ」 見た目が良いと言われて否定しない辺り、ティキも今の仕事は自分の外見があるからこそだとわかっているのだろう。お遣いばかりだった時はシェリルのコネがあったからこそだが、今はティエドールがティキの外見に惚れ込んでいるから雇ってくれている。二人のように仕事ができるだけでは駄目だろう。 「ヌードモデルなんて世界にゃ沢山いるんだから、そんな嫌がることねぇって」 「俺は芸術には興味ねぇ」 「ちょっと脱げば金が入ってくるんだぜ?うまい仕事だろ?」 「ははー、その言い方うぜー」 厭らしいビデオを撮ろうと説得しているプロデューサーみたいだと言われ、モモはカクテルを飲もうとしているティキの後頭部を平手で叩いた。衝撃でティキが飲みこみかけたカクテルを噴きだし噎せ返る。 「何すんだよ!」 「今のはティキ、お前が悪い」 ※I do not let you go前「何、まだ脱いでねぇのかよ?一ヶ月間も雇い主の要望無視して、よくやってられるな」 「そう簡単に脱いでたまるか」 ほぼ一カ月ぶりの飲みは駅近くの安い居酒屋だった。適当につまみになりそうなものを頼み、最初は他愛のない話をしていたが、徐々にティキの仕事の話になった。モモとクラックは誰にでもできるような仕事をしているため、やはりティキのやっているわけのわからない仕事が気になる。 一か月前、ヌードモデルをやることになったと愚痴をこぼしていたので、今度はヌードモデルをやってみての愚痴でも聞いてやろうと思っていたのだが、ティキは仏頂面で「まだ脱いでねぇ」とモモとクラックの期待を裏切った。 「つまんねぇの。感想聞いてやろうと思ってたのに」 「だよな」 「けど、どうやって逃げてんだ?お前、屋敷から出らんねぇとか前行ってたじゃねぇか」 「俺が逃げるのに雇い主の息子が協力的でさ、部屋に逃げさしてもらってる」 「息子…?」 モモとタップが顔を見合わせたのに気付き、ティキがああ、と頷く。 「言ってなかったっけ。雇い主の子供、息子だった」 「あの男か女かわかんねぇって子供か?」 「そうそう。俺らと同じの付いてた」 あの顔で。と言ってティキが笑うが、モモとクラックにはその子供がどんな顔をしているのかわからない。テレビや雑誌で見る中性的な美人顔の芸能人を想像するので精一杯だ。 「ほら、ヌードモデルになった原因は風呂で裸見られたからーって言っただろ?もともとはその息子が俺のことのぼせさせたのが原因なんだよ。だから、それで責任感じてくれてるらしいんだよな」 男か女かわからない顔の少年にのぼせさせられる状況がいまいちわからないが、ティキはあまり風呂が得意でないので、少年と会話をして親睦を深めているうちに意識を失ったのだろう。そういうことにしてあえてティキに質問しないでおく。 「流石に学校行ってる時は部屋行かないで屋敷ん中逃げ回ってるけどな」 「…まあ、飼い主がシェリルにチクらねぇといいな」 「ああ、そこだけ不安なんだよ。兄貴にチクったら、絶対に変な入れ知恵するからさ」 入れ知恵されて雇い主がシェリルの教えたティキが逃げられない状況を作られたら本当に逃げられなくなりそうだ。悔しいが、シェリルはティキの扱い方をそれなりに心得ており、何をすればティキが言うことを聞くのかわかっている。 「けど、お前今のまま雇い主と無駄に争ってると、休みもらえねぇんじゃねぇのか?旅行どうすんだよ?そのうち行くだろ?」 「勿論。言いだしっぺ俺だしな。そこはちゃんと考えとく」 モモとクラックが休みを取れても、旅行しようと言いだしたティキが休みを取れないのでは意味がない。聞いている限りティキの休みは不定休のようだし、それを考えると雇い主の機嫌を損ねている今の状況はまとまった休みを取りにくそうだ。 「お前らちゃんとパスポート確認しとけよ。海外だから」 「あー、俺そろそろ更新しねぇとヤバいかもなー」 「はは、俺なんて部屋のどこにあるのかわかんねぇよ」 「おい、」 ティキが海外へ行くと決めたのは、もうかなり前のことだ。それなのにパスポートの準備もしていないのかとティキが二人を睨んだが、二人はその睨みに怯むことなくけらけらと笑った。 「大丈夫大丈夫。お前が雇い主との交渉終えるまでに探しとくし、モモも更新しとくって。なぁ?」 「おう」 ティキの雇い主との争いはまだまだ時間がかかるはずだ。クラックがアパートの部屋の掃除をしてパスポートを見つけ、モモがパスポートの更新手続きを終えても、まだティキが雇い主から逃げ回っている可能性は十分にある。否、その可能性の方が高い。 その飲みが終わった数日後、二人の携帯にティキから「脱がされた」というメールが入った。 ※I do not let you go後「何、味方だと思ってた息子に脱がされたって?」 「良かったじゃねぇか。美人なんだろ?」 ティキが初のヌードモデル体験を終えた数日後、三人は外国人ばかりが集まるパブにやって来ていた。 二人より遅れてパブにやってきたティキは一目でわかるほどに疲れた風貌をしていたが、そんなことを気遣う二人ではない。さっそく、ヌードモデルをやってみての感想をティキに尋ねた。大体、今回飲みに行かないかと誘ってきたのはティキであり、このタイミングでそんな誘いをしてくるということは愚痴を聞いてほしいと言うことだろう。 「美人でも男だぞ!いや、付くもの付いてるだけで男じゃねぇのかも……」 「付いてりゃ男だろ」 わけのわからないことをこぼすティキだが、まだ酔っ払っているわけではない。今日はまだ一滴もアルコールを摂取していないが、それだけ味方だと思っていた者の裏切りが衝撃だったのだ。 「だってよ、同じ男だったらパンツ切るか?」 「パンツ切る?」 「こう、鋏でジャキッってさ。枝切るときに使うデケェ鋏使って」 ティキが鋏を動かすような動作をし、モモとクラックは何となく己の股間に手を当てた。断ち切り鋏でも恐ろしいが、ティキのしぐさでは、両手を使って切る鋏だ。そんな鋏で男のシンボルを隠す下着を着られるなど、想像するだけで縮こまる思いだ。 「切り終わってからも入口近くの椅子に座ってずーっと見張ってんだよ。俺がちょっとでも気にくわねぇことすると、鋏ジャキジャキ言わせてさぁ……あー、やだ」 「お前なんか気に障る事でもしたのか?」 「まさか!適当に会話してただけなのにあっちがいきなり俺を売ったんだ」 「お前の適当って、大抵不味いことだしなぁ…」 「だよな。大抵、マイナスなことしてる」 「えー、何やったんだよ俺」 「知るか。その場にいなかった俺らに聞くなよ」 ティキの適当は多くの場合悪い方へ働くことが多いので、きっとティキが雇い主の息子を怒らせるようなことを言ったのだろうが、何やったのかと聞かれても二人にはわからない。 拗ねたような表情をして、ティキがアルコール度数の高いリキュールを一気飲みする。そこまで酒に強いわけでなく、さらにまだ何も食べていない状態のティキにとって一気飲みは決して良いものではないのだが、よほど鬱憤が溜まっているのだろうとモモとクラックは生温かい目でティキを見守った。 「そのうち絵画教室でデッサンモデルなんてことにもなりかねねぇし……ひょっとして、今年厄年か?本厄ってやつ」 「厄年なんか気にしたことねぇくせにいきなりどうした」 「いや、厄払いしたらバイト辞めて自由になれねぇかな」 「………」 「マジで言ってんだけど。何だよその目」 二人はティキのことを「お前はやっぱり馬鹿だな」という目で見ていたのだが、流石に二人からそのような目で見られればティキも気づくらしい。むっとして二人に馬鹿にするような目の理由を尋ね、再びリキュールを飲む。ティキが二十四歳の時、「お前、数え年だと本厄なんだってさ!」とからかい半分で教えてやったのを忘れているらしい。現在二十六歳、数え年で二十七歳のティキは後厄も終え、厄年とは暫く無縁だ。 「お前さぁ、その頭で仕事貰えるだけありがたいって思っておけよ。ホント」 「贅沢言える頭じゃねぇだろ」 「くそ、お前らだって贅沢言える顔じゃねぇだろ」 顔がいいのは得なはずなんだとティキがぐちぐち言うが、ティキの残念な頭を知っている二人は顔がいいだけではどうにもならないと理解している。それに、贅沢を言える顔ではないと二人とも理解しているので、誰から見ても非の打ちどころのない見た目を持った酔っ払いに言われても怒る気になれない。 「言っとくけどな、もし俺らの顔がもっと良かったら、お前みてぇな馬鹿ほっとくぞ」 「え、」 「だよな。無視する」 「……お前らがその顔で良かった」 そうでなければ、友達が一人もいないところだった。そう言うティキの肩を叩きつつ、モモとクラックはお互いの顔を見て肩を竦めた。 仮に、ティキの頭がもっと良かったら、ティキは二人を相手にしていないだろうが、ティキの頭にはそんな逆転の発想は存在しなかったらしい。 そのことが、ティキは自分がどうあってもモモとクラックの友達でいるのだと思っているようで、なんとなく嬉しい二人だった。 ※I don't like it, but I don't dislike it 後「あー、そりゃ完全に馬鹿やったな」 「少しでも気があるように見せたら終わりだろ。そう言う時は完全に突き離さねぇと」 ティキの愚痴にモモとクラックは溜息を吐いた。夜十時頃に飲みに行こうと突然連絡が来た時は何かと思ったが、理由を聞いてみれば呆れるくら下らない理由だ。 「つーか、作ってもらった料理美味そうに食ってるあたりもうお前駄目だな」 「諦めて告白受けろ」 最初は雇い主と美人息子とのよくわからない恋愛関係を面白おかしく聞いていた二人だったが、いい加減状況が変わらずつまらない。ティキが本気でその息子を好きになってしまうか、渋々でも告白を受けてやれば状況も変わりそうだと思うのだが…。 「嫌だね。俺は美人な子見つけてその子と結婚すんの」 相変わらず、ティキはその美人が男であることを理由に首を縦に振らない。 「美人な“子”ならお前に惚れてるその子もそうだろうが」 「美人な“彼女”!そこは察しろよ」 上げ足を取られたティキがむっとして酒を飲み、モモは今ティキが飲んでいるのは何杯目だったかと頭の中で考える。口調は大分普通に感じるが、顔は真っ赤だし何より目が座っている。そろそろ危ない頃だろう。 「おいティキ、そろそろ帰ろうぜ」 「あぁ?もうちょっと付き合え。今日は潰れるまで飲むんだよ。すんませーん!」 空になったグラスを上げてティキが店員を呼ぶ。大学生くらいであろう店員がさっと近づいてきてオーダーを取り、すぐにいなくなる。 クラックが店員の対応の速さに感心しながらも三十分ほど前からちっとも減らない自分のグラスの中身をチビチビと飲んでいると、隣に座るモモが「おい」と小さな声で話しかけてきた。 「どうした?」 「あそこにいる女達、ティキのこと見てるぜ」 モモがこっそりと指さした先には、会社帰りのOLが四、五人固まっていた。ティキを見ては何やら楽しそうに話しているので、きっとティキの容姿が話題になっているのだろう。 「ホントだ。ティキは気づいてねぇけどな」 「こういうとこでちゃんと気づいて声かけりゃぁ少しは出会いもあるんだろうけどなぁ…」 相手も酔っているし、少しはティキの馬鹿な頭も誤魔化せるだろうと思うのだが、生憎酒に酔ったティキにはそんなことを考える頭がない。まあ、元々歴代付き合ってきた彼女も彼女の方から声をかけてきたことが殆どなので―ティキはナンパが出来ない―、自分から声をかけると言う発想が最初からないかもしれないが。 「おいティキ、しっかりしろ」 「……うっせぇ」 「もうすぐ着くぞ」 飲み過ぎて案の定泥酔状態になったティキをモモが抱え、クラックがティキの携帯に運よく入っていた仕事先であろう住所へ連れていく。 「デケェ屋敷だな…」 「見た目がいいだけでこんな場所でバイト出来んだから、運いいよなぁ…」 徐々に見えてきた大きな屋敷に二人で溜息を吐き、ほぼ寝ている状態のティキを見る。 「ティキ、鍵どこだ?」 「んん……?」 「か・ぎ!」 「………」 「駄目だこりゃ。俺達で探そうぜ」 こんな夜遅くまで出かけられるのだから鍵くらい持っているだろうと、ティキのポケットに手を突っ込み鍵を探す。だが、見つける前に扉が開き、中からとても美しい女性が出てきた。 「…ティキ?」 「あ、ど、どうも。夜分遅くに、すんません」 「こいつ、酔い潰れちまって…あ、俺らこいつの飲み友達で、」 「わかった。迷惑をかけてすまない。ありがとう。後はこちらで」 屋敷の中から出てきた美人にティキを預け、モモとクラックは屋敷を後にした。 「……美人だったな」 「ああ……」 「つか、女だと思ったけどよ、あれひょっとして……?」 「声、わかりにくいけど女じゃなかったよな……?」 「いや、女でもいるだろ、あれくらいの声は。……ひょっとして、例の息子か?」 「……マジであんな男いんのか」 以前、ティキが男だか女だかわからないと言っていた存在だと確信し、二人で屋敷を振り返る。 「俺、あんなに美人だったら男でもイけるわ」 「ああ……俺もだ」 それから二人はお互いの家に帰り、ひと眠りした後きていた息子に襲われかけたというティキのメールに対し、二人は同じ文章を返した。 【お幸せに】 |