my... 13


先程からユウは一心に携帯を弄っている。アレンにはそれが不思議で仕方がなかった。

「兄さん、誰とメールしてるんですか?」
「アルマの友達」
「アルマの友達って……」

何時会ったんだと聞きたくなったが、つい最近、ユウがアルマと会ってくると言って一人出かけて言ったことを思い出した。 きっと、あの時に会っていたのだろう。

「メール、楽しいですか?」
「勉強とか、色々聞けるからな」
「ああ……」

アルマの友達なら頭も良いだろうし、そう言ったアドバイスもしてくれるだろう。 アレンがユウから勉強を教わっているように、ユウはその友人から勉強を教わっている。普通のことだ。
しかし、何かが引っかかる。

「僕も会ってみたいです」
「そのうちな。今、仕事忙しいみたいだし、会えねぇよ」
「もう働いてる人何ですか?」
「……なんでそんなこと聞く?」

携帯を弄っていた手を止め、ユウが訝しげにアレンに尋ねる。少し嫌な雰囲気になったが、アレンは思い切ってユウに聞いてみた。

「また、お金貰って年上の人と会ってるのかと、思って、」
「……まあ、相手年上ってのはあってるな。けど、金なんて貰ってない」
「…信じますよ」
「勝手にしろ」

確かに、金を貰っているとしたら、もう少し慌てるだろうし、嘘ではないらしい。それに、援助交際をしていた頃に比べたら、表情が明るい。
「ここ、教えてください」
「あ?……ここは、前の文脈と後の文脈から――」

そのうち会わせると言っているし、仮にアルマの友達というのが嘘だったとしても、存在を隠す必要のない人物なのだろう。
ユウを信じ、アレンは解説するユウの声に集中した。








【今日、学校終わってから会えるか?アルマも一緒に】

六月四日。ユウの誕生日二日前の朝、ユウが学校へ行く準備をしていると、普段あまり自分からメールをしないティキからメールが着た。
しかも、会えるか?とユウと会うことを希望するメールだったので、ユウは見た瞬間に会いたいと返信した。
兄弟として再会してから会うのはこれが初めてだ。

【飯、一緒に食える?】

ティキからの返信に少し迷い、キッチンへ行って朝食の片付けをしている母親に声をかける。

「どうしたの?」
「今日、友達と飯食ってくる」
「あら…良いお友達ね」

ニコニコと母親が言うので、ひとまずほっとし、何が良い友達なのかわからないとは思ったが部屋に戻ってティキに大丈夫だと返信する。

【学校終わったらメールくれ。じゃあ、後で】

ティキも会社へ行く時間が迫っていたのか、メールはそれで終わった。少しつまらないとは思ったが、携帯をしまって鞄を掴む。
ユウが部屋を出ると、慌ててアレンも部屋から出てきた。

「一緒に行きます!」
「…さっさとしろ。五分だけ待ってやる」
「はい!」

アレンはユウよりも起きるのが遅く、さらに、食べる量が多い為、朝はいつもギリギリになる。
部屋の前に立ってしまっているドアを見ていると、向こうからガタガタと慌ただしい音がした。そして、静かになり、あと少しで五分というところでアレンが出てくる。

「お待たせしました!」
「ああ、……お前、もう少し早く起きたらどうだ」
「何言ってるんですか!食事に睡眠は大切ですよ」
「お前の場合どっちも過剰だろ」
「代謝がいいんです。ほらっ、行きますよ」

呆れているユウの手を引っ張り、待たせていたのはどっちだというユウの声を無視してユウを先導する。靴を履いていると、奥から「行ってらっしゃい」母親の声がした。

「今日、一緒に帰りましょうよ、兄さん」
「今日は無理だ。友達と飯食って帰る」
「…本当に友達ですか?」
「あ?」

訝しげな目を向けてくるアレンを見、ユウは溜息をついて携帯を取り出した。 どうやら、アレンはまだ、ユウが友達と食べて帰ると言うと、援助交際の可能性を考えるらしい。
ティキとはそんな関係ではないし、堂々としてアレンの目など無視すればいいのだが、アレンだってティキの弟だ。 きっと、ティキはアレンが自分のことをそんな風に見ていると知ったら傷つくだろう。

受信箱からティキとのメールを表示し、アレンに見せる。

「ティキ・ミック?」
「言っただろ、アルマの友達だ」
「ああ、この人がその……ま、メールにもアルマの名前があるし、嘘じゃないみたいですね」

アレンが納得したのを確認し、携帯をしまう。
一体いつまで援助交際ではないかと疑われなければいけないのだろうかと思ったが、それだけ家族に心配させたのだ。文句は言えない。

「そっか、お祝いとか?」
「何で?」
「明後日、六月六日じゃないですか」
「………」

日付を聞いてピンとこなかったが、学校の校門が見えてきたところでその日が自分の誕生日だったことを思い出した。

「だから、」
「え?」

ぽつりと呟いた言葉にアレンが反応し、はっと口を閉ざす。
母親が良いお友達と言ったのは、こういうわけだったのだ。ティキとアルマが、ユウの誕生日祝いとして食事に誘ったと思ったのだろう。 実際、誘われた時はそんなことを考えてもいなかったが、そうなのかもしれない。








「ユウ!」
「アルマ、」

学校終わり、ティキに終わったとメールをして、返信に従って校門前で待っていると、アルマが小走り気味でやってきた。

「何でお前なんだよ」

ティキが迎えに来ると思っていたので、少しむっとしてアルマを見る。

「そう言うなって。だって、俺だったらアレンも怪しまないじゃん」
「アレンには、もう話した。今日、アルマと、ティキ・ミックって人と飯食うって」
「うぇっ?じゃあ、兄弟ってことも?」
「それは言ってない」

それはまだ秘密にしておきたい。
「そっか。でも、言っちゃったのかー……大丈夫?」
「何がだ?」

どうして心配されるようなことがあるのかと首をかしげると、だって、とアルマが口を開く。

「もし、アレンが、『今日兄さんは、アルマと、ティキ・ミックって人とご飯食べるんですよ』なんて小母さんに言ったらどうする?」
「………」
「…考えてなかった?」
「思いつきもしなかった」

別に名前くらい教えやってもいいだろうという軽い気持ちだったが、よくよく考えてみれば母親にユウがティキと会っていると知られる危険性を上げてしまっていた。
母親に知られたら、また母親が何かしそうだ。ティキの連絡先を知っているし、下手したらティキに直接会うなと言いに行くかもしれない。

慌てて携帯を取り出し、アレンに【今度会わせてやるから母さんにはティキさんのこと黙ってろ】とメールする。

「これで確実に、アレンにティキって人は小母さんには言っちゃいけない不思議な人なんだって思われるけど、仕方ないね。小母さん怒るだろうし」
「…言わなきゃよかった」
「過ぎたこと考えてても仕方ないって。兄ちゃん、近くの駐車場で待ってるから、行こうよ」
「ああ」

五分ほど歩くと小さな駐車場が見え、その入口の前にティキが待っていた。

「ティキにぃ、」

隣を歩いていたアルマを置いて小走りでティキの元へ向かう。後ろから「にぃ?!」と驚く声が聞こえたが、無視した。

「学校お疲れ」

軽く頭を撫でられ、素直にそれを受け入れる。
アルマには俺と二人きりの時と態度が違うと拗ねられたが、気にしない。

「じゃあ、行くか。美味い蕎麦屋、予約してあるから」
「アルマ、蕎麦苦手じゃなかったか?」
「ん?ああ、平気だよ。そこ、うどんもあるんだ」

確かアルマは蕎麦は食べることはできるがそこまで得意ではなかったはずだと尋ねると、ユウは優しいねと頭を撫でられた。
さっとその手をどけると、ティキが苦笑して口を開く。

「もう少しアルマにも優しくしてやれよ」
「こいつ、優しくすると付け上がる」
「ちょっと、それは酷くない?」
「事実だ」
「何だよー……まあ、今日は特別だもんな。許してあげよう」
「ふん、偉そうに」
「落ち着け」

二人とも怒っているわけではないのでからかい合っているようなものなのだが、これがいつまでも続くと本当に空気が悪くなってしまう。
ティキが二人の間に入り、車に乗るよう指示する。

「話は飯食いながらでもできるから、ほら」

ユウは助手席に乗り、アルマは後部座席の座ったが、ティキが蕎麦屋へ向かって運転している間もアルマとユウのからかい合いは続き、ティキは、二人ともまだ子供だと思いながらも、そうやって話ができる二人を少し羨しく思った。