「はー…死ぬかと思った」
賊侵入の一件で新調されたユウのベッドに男がばたりと横になる。ユウが顔を顰めているのにも関わらず、さらに、男が捕まる原因になった仔猿がじっと男を見ているのにも関わらず、欠伸をして今にも寝てしまいそうだ。 「おい、」 「あ?」 寝られては困ると男に近寄って声をかけると、男は面倒くさげに上体を起こしてユウを見た。男の上体が寝ていた場所にはうっすらと土と血のシミができていた。 「俺は、お前の言うとおりにしてやった。ガラス玉を取るって約束だ」 「ああ……そうだっけ?忘れたな」 「お前っ、」 騙されたと思い、カッとなってベッドの上で胡坐をかいている男に掴みかかる。だが、男は慌てる様子もなく面白そうに笑い、自分の襤褸切れを掴んでいるまだ幼さを残した手を掴んでユウの体を引き寄せた。 ベッドの上で足場が不安定だったということもあり、ユウは為すすべなく男の方へと倒れこんだ。男に体を預ける体勢になってしまい、慌てて男から離れようとしたが、男にドレスの上から性器を撫でられ、体から力が抜けてしまう。 「ずーっと、勃ちっぱなし?辛いねー、それとも、慣れた?」 「う、るさい……」 折角、意識しないように気をつけてきたというのに、男が与えた刺激が絶頂に達したとしても射精できないユウの体を苦しめる。 「キッ!」 ユウが危険だと思ったのか、ラウ・シーミンが警戒するような声を出し、ざわっと毛を経せ始めた。それを見た男は、少し顔を歪めた後、ユウにラウ・シーミンの警戒を解かせるよう言ってきた。 「あの猿、俺を殺す気だ。良いのか?俺が死んだら、お前はずっとこのままだ」 「ラウは、将軍の命令しか…いっ、!!」 隙間なく性器に詰め込まれたガラス玉が突然大きく動き、激しい痛みにユウは思わず呻いてしまう。 「ラウ、いいっ、…大丈夫だ、」 「……キィ」 痛みに耐えられず男の言うとおり、忠実に任務を遂行しようとしているラウ・シーミンに警戒を解くよう命令する。バチバチと体から異音を発生させていたラウ・シーミンは、ユウが命令すると、ぴたりと体の動きを止め、その場に座った。 「聞いたじゃねぇか」 「…んっ、」 「はは、今ピクッて動いた」 もうラウ・シーミンは危険ではないと考えたのか、少しずつ男の手がドレスの中へ沈んでいき、それに伴ってユウの性器が感じる男の手の感覚が強くなる。そして、男の冷たい手が直に性器に触れた途端、ユウの体に快感が走った。 「ひ、あ…あ、…い、やだ、」 男の指がユウの性器をゆるゆると扱き、ユウに少しずつ快感を与えていく。だが、射精することができない今の状況では拷問でしかない。 今にも爆発しそうなほどの熱が出口を失ってぐるぐるとユウの中を駆け巡り、目の前がチカチカする。 「イかせてやろうか」 耳元で囁かれ、ユウの体が跳ねる。 やはり約束を守ってガラス玉を取ってくれるのかと、ユウが男の甘い囁きに何度も頷くと、男は艶めいた笑みを口元に浮かべ、ユウの性器を弄る手をより激しく動かしてきた。 「っ、ぅ…っ、」 声を漏らさないようにと両手で口を押さえ、今か今かと解放の時を待ちわびる。 「イきな」 「っ、ァ……っ!!」 男の声とほぼ同時に一番強い熱がこみ上げ、ユウは体の内から湧き上がる快感を抵抗することなく受け入れた。一瞬の緊張の後、今まで感じたことのないほどの快楽がユウを襲う。 ユウが快楽の余韻に酔いしれている中、男がドレスに埋まっていた手を抜き、それをユウの顔の前に持ってくる。男の手は、白い液体と透明な液体で嫌らしく光っていた。 「我慢した後の射精、気持ちよかっただろ」 「………」 男の問いに対し、ユウは頷くわけでも否定するわけでもなく、ただ男の手を見、そして、先程体を襲った快楽は射精できたからだったのだと知る。 「………」 「おい、」 やっと解放されたユウは、今度は強い眠気に襲われ、男の腕の中で眠りに落ちた。 「…ぅ……」 何かに頬を叩かれる感覚にユウがまだ眠いと訴えている目を開けると、すぐ間近に男の顔があった。 「っ!」 吃驚して起き上がると、男はやっと起きたと言わんばかりに息を吐き、ラウ・シーミンが男を捕らえる為に壊し、修復されたばかりの壁に寄りかかって座る。 男の服は未だに牢から出てきたときのままだが、男が横になって汚れたはずのベッドやユウが着ていたドレスは違うものになっており、頭が混乱する。ラウ・シーミンが乗って遊んでいる時計を見てみると、男が部屋に連れてこられてから一時間も経っていない。 「言っとくけど、王女様の頭の中と一日ずれてるぜ、その時計。服は、俺が勝手に変えた。王女様がイって汚れてたからな。ちょっと汚れたかもしれねぇけど、まあ、そこは我慢しろよ」 「一日って、」 「俺、いい加減腹減ったんだけど」 つまり、丸一日寝てしまったということかと男に尋ねようとしたが、その前に男に口を挟まれた。 「そこの猿、さっきまで俺に見せびらかすみたいに餌食っててさ、腹が立つ。王女様もそろそろ腹減ってきただろ」 「………」 言われてみれば、空腹に似たような感覚がある。一度射精したことで、男が放っておいても消えると言っていた体内の薬が薄れ始めたのかもしれない。 腹が減ったと言ってユウを起こした男を見れば、部屋に来た時よりも疲労した顔をしており、男の言った丸一日経っているということは嘘ではないようだ。 男はともかく、ユウも自身も腹が減り始めたことを感じたので、食事を取りに行こうとベッドから降りる。隣の部屋にいるだろうリンクに頼んでも良いのだが、少しの間で良いから男から離れていたいと思った。 だが、立ち上がってみて今だ性器の違和感が消えていないのを感じ、男を見る。一度射精したということは、ガラス玉は取り除かれたはずだ。 ユウの視線に気付いたのか、男が口の端を上げて「気付いた?」と笑った。 「全部取れたと思ってたのか?」 「射精したのに、何で、」 「簡単なことだろ」 男が手を前に出し、ユウに見ているように言う。訝しがりながらも男の手を見ていると、小さなガラス玉が男の手から床に落ちた。 「どこから、」 「どこって、手からだよ。出てくんの見てただろ?取ったのは、この一つだけだ。他のはまだ王女様の体の中。イった時は、今見たいに俺が一時的に体の中に隠しただけ」 「取るって言ったのに、」 「全部取るなんて誰が言った?」 男の言葉に、まだまだこの男は自分のことを扱き使う気なのだと知り、ユウの顔がかっと熱くなる。騙された。 「心配すんなって。王女様が素直に俺の言うこと聞いてりゃ、いつかは全部外してやるし、トイレ行きたくなった時は何とかしてやるよ」 「……リンク!」 ユウが大声で名前を呼ぶと、一分もしないうちにリンクが部屋にやってきた。その表情は、どこかほっとしているようにも見える。恐らくは、ユウが焦るわけでもない唯の大声を出したことに、ある程度回復してくれたのかと安心したのだろう。 「どうしましたか」 「食事を持ってこい。…二人分」 二人分、という言葉でリンクの眉間に皺が寄る。 「その男の分も、ということですか?」 「それ以外にどういう意味があるんだよ。量を減らしたり、材料を変えたりはするな」 「……わかりました。すぐにお持ちします」 リンクが部屋から出ていくと、男がニヤッと笑って口を開いた。 「懸命な判断だな。自分で取りに行ったら、またおっ勃てちまうもんな」 「この、……」 「何だよ、言い返してみりゃあいい。俺は心が広いからな、少しくらい暴言吐かれたってお仕置きしようとか思わねぇし」 男はそう言うが、ユウは出かかった言葉を飲み込んで口を閉じた。この男の考えていることはいまいちよくわからないが、男の言葉は信用しない方がいいというのは痛いほどわかった。どうせ、ユウが男を罵倒すれば、今のは言い過ぎだとでも言ってお仕置きするのだろう。 ユウが何も言ってこなかったのが面白くないのか、男が不満げな溜息を漏らし、床に横になる。 「飯来たら起こして」 「………」 あっという間に寝息を立て始めた男にラウ・シーミンが近寄り、目を赤色に変化させて毛を逆立て始める。 「…ラウ、放っておけ」 男が寝ている間に殺そうとでも思ったのだろう。ユウが止めるよう言った後も暫く男を見て威嚇していたが、もう一度強めに止めるよう言うと、男から離れ、先程まで遊んでいた時計の傍へと戻った。 ユウが寝ている間にベッドのシーツは新しくなった。ドレスだって、男が着換えさせたと言うが、違うものに変わっている。だが、男は相変わらず襤褸切れを着て、肌は乾いた血や泥で汚れたままだ。 「…本当に、何考えてんだかわかんねぇ」 |