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「王女、」

鎖に繋がれた男は血だらけで、見るに堪えない姿だ。こんな怪我ではやはりというべきか、余裕もないらしく、昨晩散々自分が弄んだユウを見ても笑いもしない。

「ここは王女が来るような場所ではないよ」

ユウが男に釘づけになっていると、腕組みをしたクラウドがユウと男の間に立った。さらに、ラウ・シーミンが男を隠すようにその場に座る。

「何か?」
「その、昨日の礼を言いたかった。ありがとう」
「気にする程のことじゃない。私はただ、己の仕事をしたまでだからね」
「………」
「まだ何かあるのか?」

なかなか帰ろうとしないユウに、礼は今言っただろうとクラウドが眉を顰める。王女という立場の人間に強くは言えないが、早くこの場を去ってもらいたかった。
王でも滅多に来ない特別牢は、警備の間では拷問部屋と呼ばれており、血や汗の臭いで酷く空気が濁っている。王女が、否、子供が来るような場所ではない。

「男と、二人きりで話がしたい。いいか?」
「私が許すとでも?」
「……いや、」
「なら、ここにはもう用がないとわかるね、王女」
「…ああ」

肩を落とし、ユウは兵士に連れられて特別牢を後にした。
まあ、クラウドに頼んでも無駄だということは最初からわかっていた。クラウドはユウが特別牢に来たことも良く思っていないだろう。 それなのに、その特別牢で、ユウを襲った男と二人きりにさせてくれなんて、願っても叶うはずがない。
だが、

「っ、ぁ…」
「王女!」

牢から城内へ続く階段の途中で足が限界を迎え、ガクンとその場に座り込む。兵士が慌ててユウを支え、体の具合を聞いてくる。

さっきから狂おしいほどの熱に体を悩まされ、さらにはドレスで勃起した自身を遊ばれ、限界だった。

「少し、気分が悪い…部屋へ、」
「畏まりました」

兵士がユウの脇とひざ裏に手を入れ、軽々とユウを持ち上げる。ユウが、変な声を出してしまわないようにと口元に当てている手を、吐きそうだから口元を押さえているのだと勘違いした兵士が、小走り気味に階段を駆け上がり、その振動さえ辛かった。
何とか振動に耐え、部屋で一人なると、ユウは扉に背をあづけてその場に座り込んだ。そして、ドレスを捲って自身を外気に晒す。

「はぁっ、はっ、」

痛々しく勃起した性器の排泄口からは何の液体も漏れておらず、代わりに男が埋め込んだガラス玉が微かに覗いている。
ユウが男と話をしようと思った理由は、このガラス玉だった。ガラス玉の所為で射精できず、このままでは熱は籠るばかりだ。
あの場にはリンクを始め数名の兵士、そしてクラウドがいたが、誰もユウが何をされたのかわからない。多くは、ユウが犯されたと思っているだろう。それも不名誉ではあるが、この惨めな男性器を知られるよりは犯されたと思われている方がましだ。

「ぅ、……」

特別牢の場所はわかった。クラウドが街の警備へ行っているであろう夜、もう一度あの場所へ行ってみよう。   








「どこだ……っ、ひ、」

背伸びをして体勢を崩した所為で壁に近づきすぎてしまった。服越しに性器が擦れ、声が漏れる。
夜、ユウは明るいうちに決心していた通り、再び特別牢の前までやってきていた。
部屋を出る際にリンクの部屋の明かりが扉の隙間から洩れていたので、もしかしたら部屋から抜け出したことに気付かれるかもしれない。少し前までユウは頻繁に夜中部屋を抜け出していたので、リンクは今でもユウが部屋を抜け出していないかと偶にチェックする。
昼間、ユウがクラウドに会いたがって特別牢に行ったのは、部屋の中で聞いていただろうし、抜け出したと知られたら、まず最初に特別牢を怪しむだろう。

急がなければと、兵士が探っていた場所を調べる。どこかに、この岩の壁を動かすスイッチがあるはずだ。だが、届く限りの場所を調べても、そのようなものは見当たらない。

「あいつ、どうやって開けたんだ……あ、」

どこか艶の入った溜息を漏らし、下を向いた瞬間、ユウは思わず声を出してしまった。床に敷き詰められた石に一つだけ、周りと色の違うものがあった。
壁を探るようにしていたのは、自分に本当の扉の開け方を教えない為かとむっとしながらその石を押すと、あの時のようにガコンと音がして岩の壁が下がった。
一番近くにあった壁の松明を外して中に入ると、下を向いていた男がユウを見、にっと笑った。体はユウが昼間見た時よりも痣ができ、血が付いていたが、男の表情は昼よりもユウを馬鹿にしている。

「もう一回来ると思った」
「っ、」
「その様子見てると、限界だな?王女様」

服を着ているのも辛いだろと図星を突かれ、カッとして男に掴みかかる。男が着ているもはや襤褸切れのような上着を掴み、男がだらりと伸ばしている足の上に跨った。

「何の為に、こんなことっ」
「俺の安全の為だよ。それ以外に何がある?」
「安全、…ぁあっ!」

男が伸ばしていた足を曲げ、ユウの股間を刺激した。びくっと体を跳ねさせて声を出すユウの姿を見て、男がケタケタを笑う。
真剣に話をする気はないらしい。死に近いのは掴まって身動きの取れない男の方だが、男が死んで困るのはユウだ。優位に立っている男がユウの話を真剣に聞かないのも、無理はない。

「ひ、人の、っ、は、なしをっ」
「ん?」

股間を擦られ、力が抜ける。男の上にぺたりと座りこむと、男が口端を上げた。

「…俺を、解放、しろ」
「解放?王女様は自由だろ?むしろ、俺を拘束してる側だ」
「そうじゃなくてっ、」
「じゃなくて?何?」
「が……ガラス玉を、取れ、…頼むから、ぁ」

男が刺激した所為で、呼吸すらままならない。もう何でもいいから、楽になりたい。

「おかしくなるっ、」
「………」
「お、お願い、」

お願いします、と言うつもりだったが、お願い、より後の言葉が出てこなかった。王の子であり、気の強いユウは、誰かにお願いしますなんて言ったことがない。 今、自分がどんな状況にあるのか理解はしているが、それでも、罪人相手に下手に出ることはできなかった。
男は、耐えきれず涙を流すユウをじっと見、そして、呆れたように溜息を吐く。
「俺は、王女様がおかしくなろうが構わねぇの。あのさ、俺がさっき言った言葉の意味、理解してる?俺、自分の安全のために、王女様が今おっ勃ててるモノにガラス玉入れたって、言ったんだぜ?」
「じゃあっ、これ以上、どうしろと、」
「これ以上って、王女様何もしてねぇよな?ただ、ガラス玉取ってーって、お願いしただけだろ?俺には何のメリットもない」
「…じ、自由にするっ、…それなら、」
「悪かねぇけど、最良じゃないな」

安全の為ということは、自由になる為ではないのか?
男の考えがわからず、ユウは唇を噛んで俯いた。何と言ったら自由にしてくれるのか、もう思いつかない。

「あと数日我慢すりゃあ、薬は自然に消える。薬の効果がなくなれば、何もしなくても楽になる」
「…え?」

男の言葉に、思わず間抜けた表情を晒してしまう。 この苦しさから解放されるために恥を忍んで男に頼みに来たのに、数日耐えれば男に頭を下げるまでもなく治っていたというのだから、ユウの戸惑いは当然と言えば当然だろう。

「今、薬が抜ければ楽になれるって、ほっとしただろ?だけど、違うんだよな」
「…何、」
「王女様さ、今日、何か食ったり飲んだりしたか?」
「………」

言われてみれば、今日一日、何も口にしていない。体の疼きを抑え込むのに精一杯だったし、空腹を感じなかった。
ユウの無言の中に答えを感じたのか、男がまた口を開く。

「薬には、食欲を抑える作用もあるからな。今はまだいい。けど、薬が抜けたら腹が減る。喉も渇く。そしたら、どうなると思う?」
「…どう、って、」
「王女様だって、小便くらいするだろ」
「………!」
「本当に辛いのは薬が抜けてからだぜ、王女様」

男の言おうとしていることが分かり、余計に男の行為が同じ人間として信じられなくなった。
排尿は生理的な現象で、自分の意思で抑え込めるものではなく、さらに言うなら無理矢理抑え込んではいけないものだ。

「何日耐えられるかな?最悪、死ぬ場合もあるらしいけど」
「お前っ」
「ガラス玉、取ってほしいだろ?だったら、今から言うこと、よーく聞けよ?」