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夜が明け、町で朝市が行われ始めた頃、ユウの体は異変に襲われていた。

「っ、ふっ、…」

心臓の鼓動は五月蠅く、体中が熱い。ガラス玉を入れられた幼い性器が痛みを忘れてしまったかのように勃起し、ユウの呼吸にあわせて震えている。
体の異変があの男が体内に残した瓶が原因だと気付くのにそう時間はかからなかったが、ユウはこの熱をどうすることもできず布団の中で蹲っていた。
幸いなのは、夜中にあったあの騒ぎの為に、世話係のリンクが遠慮して起こしに来ないことだろうか。 何時もならば、朝市の賑わいがユウの耳に入り始めるのとほぼ同時に声がかかる。教会に行って祈る時間だと。

「んっ、」

身動ぎした際に性器がシーツに擦れ、びくっと体が反応する。思いがけない快感だった。 ただシーツに擦れただけだというのに、自分の手で弄ったときとは比べ物にならない。
恐る恐る手を近づけて指先で触れてみると、またビリビリと快感が体中を駆け巡る。
驚いて手を離したが、今までに感じたことのないくらい大きな快楽の波に、もう一度だけ…と再び手を伸ばす。すると、またユウが期待していた刺激が体を襲う。
頭では自らの体の状態を理解し、こんなことをして楽しんでいる場合ではないとわかっているのだが、体が言うことを聞かない。
あと一回だけ、これで最後、と自分に言い聞かせながら何度も性器に手をのばし、とうとう性器を握りしめてしまった。

「ひっ……―――!!!」

握る手に緩急をつけるだけで気持ち良く、意識が飛びそうになる。やんわりと扱いたら、小さなガラス玉が動いて他のガラス玉に当たり、鈍い音がした。
自身を慰める手を止められない。閉じられた窓から聞こえてくる喧騒や偶に扉の前を通り過ぎる鎧を着た兵士の足音は、本来ならばユウの羞恥心を大きくして自慰にふける手を止めるところだが、今は興奮剤にしかならない。
朝、人々が自らの仕事を始めているのに、自分は教会で祈るという勤めをせず、ベッドで性器を弄って快楽を貪っている。
もし、ここで声を出して兵士にこの姿を見られたら、あっという間に噂が広まるだろう。どんな噂になるのかは分からないが、きっと良い物ではない。ユウを辱める尾鰭が沢山付いてしまうはずだ。
ユウの知らないところで人々が淫乱と罵る。想像するだけで息が荒くなった。









「王女、気分はいかかですか」

リンクの声に、ユウはびくっとして己の性器を弄っていた手を止めた。
どれだけの間我を忘れて快楽におぼれていたのか定かではないが、窓から聞こえる声は朝市の騒がしさではなく、井戸端会議をしている女たちの笑い声に変わっていた。

「入っても?」
「は、入るなっ!」

己の行為に真っ青になるが、まだ体は火照り、股間の熱も治まらない。 慌てて寝衣を整えても主張する性器をどうすることもできず、普段ならば「勝手にしろ」とリンクの入室を許すのだが、上ずった声で入室を拒否した。
リンクがユウの反応にどういう結論を下したのかは分からないが、「わかりました」という声の後、扉は開かなかった。

「…何の用だ」
「二つ。まず、今日の授業は全て休みになりました。常にサボりたがっている貴方にはよい知らせでしょう」
「………」
「それと、昨晩侵入した賊ですが、処刑が見送られました」
「何故、」

てっきり、処刑準備が進んでいると思っていた為戸惑う。あんな危険な男、早々に殺すべきだ。

「隣国の大使に男の顔を見せたところ、脱獄した者に間違いないという結論が出たのですが、脱獄した際に隣国から持ち出したはずの国宝を持っていなかったのです。 あの男を殺したら隠し場所が分からなくなる。クラウド将軍が無理矢理にでも隠し場所を吐かせると言っていたので、生きている限りあの男は拷問を受けることになるかと」
「そう、か、」
「少しは気が晴れましたか?」
「………」
「…まだ気分が優れないようなので、食事はまた後ほど持ってきます。では」

隣部屋の扉が開き、バタンと閉じられる。リンクが部屋に戻ったのだろう。官吏と言っても、まだ年端がいかず、主な仕事がユウの世話係であるリンクは、基本的にユウが部屋に閉じこもっていればやることがない。

「…怒られなかった」

男の存在に気付いた時点で叫べば良かったのに、ユウは自ら剣を構え、男と対峙してしまった。それなのに。
恐らく、リンク自身も投げたナイフが当たらず、ユウを守れなかったという悔しさを感じているのだろう。男の特異性から、これはユウを責められる問題ではないと思ったのかもしれない。
リンクだけではない。あの場にいた兵士たちだって、自分の無力さを嘆いているはずだ。ユウが部屋に閉じこもっていると聞いて、どんな気持ちでいることか……。
先程まで自分がしていたことを恥じ、ベッドからおりる。普段嫌々着させられている広がりのあるドレスを着て勃起したままの性器を誤魔化し、快楽でとろけ気味の表情を両手でバチンと叱った。

「ひぅっ、」

すっと背筋を伸ばすとドレスに性器が擦れ、がくっと膝が崩れた。折角リンクの声で正気に戻ったというのに、これではさっきと同じことを繰り返してしまう。
深呼吸して体を落ち着かせ、もう一度背筋を伸ばす。一歩足を踏み出すごとにビリビリと快感がユウを襲ったが、ここで負けては駄目だと勢いよく扉を開いて部屋を出た。

「王女、お体は、」
「平気だ」

丁度部屋の前を通りがかった兵士に声をかけられ、いつもの調子で返事をする。兵士がほっとした表情を見せたのにユウも安心し、やはり部屋から出てきて正解だったと思う。

「クラウドに礼を言いたい。どこにいる?」
「恐らく特別牢に」
「案内しろ」
「し、しかし、」
「案内しろ」

もう一度、少し口調を強めて言うと、兵士は慌てて姿勢を正し、案内しますと歩き出した。
小さな頃から特別牢というものがあることは知っていたが、ユウはそれがどこにあるのか知らない。幼い頃、城中を探検したことがあったが、牢はあってもそこに特別、らしき空間はなかった。

「まだ、着かないのか?」
「城から隔離された場所にありますので…大丈夫ですか?」
「問題ない、進め」
「はっ!」

兵士が歩く速度を落としたことにほっとし、息を吐く。荒い息をしていたユウを見て、疲れたと思ったのだろう。実際は、体の疼きを抑えきれずにいるだけなのだが。

一度声をかけてからは前を歩く兵士の足元に集中し、それ以外のことを考えないように歩いた。

「ここです」

兵士の声ではっと顔を上げると、目の前には唯の岩の壁があった。
「唯の壁だ、」

ユウが訝しがる中、兵士が壁の隅に立ち、何かを探すように頭を動かす。そして、ガコンと何かが外れるような音がした後、ユウの目の前の壁が大きな音を立てて下へ下がった。

「王女」

壁の向こうには驚いたような顔をしたクラウドに、変体したラウ・シーミン、そして、両手をそれぞれ壁から伸びた鎖に繋がれた男がいた。