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カツという音にユウはゆっくりと目を開けた。

「何だ、もう起きたのか?」
「……ぅ……っ、」

腰のだるさに起き上がれず声のするほうを見ると、男は床の定位置に座ってガラス玉を弄っていた。男の脇には絞られたタオルとくしゃくしゃになったシーツがあった。どうやら、ユウの体を拭き、シーツを交換してくれたらしい。
少し首を動かして体を見ると、布団はユウの足元できちんと織られており、ユウの体には一切かかっていない。ユウが脱いだドレスと下着は床に脱ぎ棄てられたままだった。

「…ガラス玉、」
「まだ取ってねぇよ。折角だから、王女様に取ってるとこ見せてやろうと思ってさ」

男が立ち上がり、ベッドに腰かける。汚れてはいないものの未だ一糸纏わぬ姿のユウに手を伸ばすと、萎えたユウ自身に手を当て、そのままやんわりと握りこんだ。

「ん……お前、」

どこか性的な動きをする男の手を注意しようと声を出したが、男がユウの口に人差し指を当ててユウが喋るのを制止した。黙って見ていろということらしい。
いつもはユウの知らないうちにガラス玉を取っているので、実際に男がユウのものからガラス玉を取るのを見るのはこれが初めてだ。
やんわりと自身を揉まれる感触に戸惑いながらも男の手を見ていると、親指と人差し指がユウ自身の中に入り込んだ。

「ひっ、」

中にあるガラス玉の一つがゴロゴロとユウの中で動き、他のガラス玉に当たってカチと音を鳴らす。
吐き出したばかりの自身に再び熱が籠りだし、ゆるゆると硬さを持ち始める。こんなことは必要ないはずだとユウ自身をいじる男の手を掴むと、「冗談だよ」と男がユウ自身に入れていた指二本を外に出した。出てきた指は小さなガラス玉を挿んでいる。

「はい。約束のガラス玉」
「………」

勃ち上がり始めたユウのものを放ってガラス玉を己の体内に納める男に対し、何も言うことができずただ男を見る。

「何?」
「……何でもない」

まさかもう一度射精させてほしいなどとは言えない。黙って顔を逸らすと、男は再び床に座って背を壁に預けた。

「あの薬」
「…薬?」
「まだ、催淫作用の効果が残ってるから、少ししたらまた相手してやるよ。それまで我慢してろ」
「っ、さっき出したのに、」

確かに、以前もあの薬が効くまでにはかなりの時間がかかっていた。だが、今回は一度射精したのだから効果は消えているはずだと言いかけたユウだったが、男に腰はそこまで痛くないだろうと言われ口を閉じた。酷い気だるさはあるが、痛みは確かに弱い。

「薬が効いてる間は痛みもそこまで感じねぇ。そういうこと。効果が出てからは射精すりゃ楽になるけど、体の中の薬は一定時間効果が続く。効果が表れるそれまでに何回イこうが薬が薄れるわけじゃねぇよ」
「…お前、さっきどういうつもりであんなことをしたんだ」
「ん?」

寝に入ろうと横になった男に話しかけ、意識を自分の方へと向けさせる。眠ろうとしたところを妨害された男だったが、特に嫌そうな顔をするわけでもなく体を起してユウを見た。

「何が」
「お前は俺に自慰をしろといった。それなのに、途中から、あんな、」
「ああ、セックス?最初から、最終的な目的はそれだったけど」

大した抵抗もしなかったユウだったが、まだ異性との交わりも経験していない中で同性との性行為を―それも、受け入れる側で―行うことになったのは、まさに予想外の出来事だった。しかも、薬の所為で痛みが和らいでいたとはいえそれ程男自身を不快とは思わず、快楽まで感じてしまったのだ。
複雑な心境を隠せず、どうしてこんな思いをしなければいけないのかと原因を作った男に問うが、男は戸惑うこともなく最初から性行為に繋げるつもりだったと告白した。

「ここにきてからセックスできなくなったからな。どっかに捌け口ねぇかなーって思ったらさ、王女様しかいないだろ。他に確実にヤれる奴なんていねぇし」
「そ、そんなことの為に俺を、」
「けど王女様は男だろ?男相手になんてしたことねぇし興奮することもなかったから、自慰する姿見て興奮できるかどうか試してみた」
「お前の性欲処理の為に、俺を使ったのか?」
「今そうだって言ったじゃん。だろ?」
「………聞いた俺が馬鹿だった」

男の話を聞いてユウはつん、と何かが込み上がってくるのを感じ、ドレスを着ないまま布団の中に潜り込んだ。視界がぼんやりとして枕に顔を埋めるとじわりと目が触れている部分が湿っぽくなった。

「あのさぁ、セックスなんてそんなもんだぜ?気持ちよけりゃそれでいいんだよ。何で泣いてんの」

溜息を吐いた男に何故泣いているのかと問われたが、ユウは枕に埋めた顔を上げないままに泣いていないと首を横に振った。

「ま、俺寝るから薬効いてきたら言えよ」

暫くしてユウの耳には穏やかな寝息が入ってきて、枕から少しだけ顔を上げてちらっとそちらを向くと、男の寝顔がユウの目に入る。
気だるい腰と切れた肛門の痛みは、ユウの中に男が入り一つになった証。

王族である以上、他国の王族や国の貴族と将来結婚することはわかっていたし、そこには恋愛などというものは存在しないということも理解していた。だが、結婚をすれば子を為す為に性行為はするだろう。
娼館や性奴隷の存在は知っているが、それでも、ユウの中で性行為とは恋人が愛を確認する為、若しくは子を為す為の神聖な行為だったのだ。だからこそ、自分の初めての性行為が相手の性欲処理という目的で行われたことが悔しくて、悲しかった。
同性ではあるが、男が少しでもユウを気にしてくれるような答えをしてくれれば、これほど悲しくはならなかった。









「今日は果物ばっかだな」
「…厨房の火を消した後に頼んだんだ。文句言うな」
「これが夕食かぁ……」

すっかり暗くなり、月はすでに空の高い位置にある。そんな時間ではあったが、ユウと男は食事をしていた。こんな時間ではあるが、一応これが夕食になる。
男が眠ってかなりの時間が過ぎた頃、ユウの体を以前感じた快楽の波が襲った。
ユウは、最初はなんとか一人で耐えようと男に声をかけず、なんとか快楽の波に耐えていたのだ。部屋の外から聞こえた「王と一緒に食事をする時間です」という声に断りの返事をし、ベッドで蹲っていたのだが……。
高ぶる熱の苦しさと射精によってその苦しさから解放される快楽を知っている体は、ユウの意思に反して以前ほどの我慢が出来なくなっており、結局男を頼ってしまった。
あの時は唯ユウ自身を扱いて射精させた男だったが、今回は自慰だけでは済まなかった。再び心が籠らない、子を為すわけでもない行為をした。再び男にいいように体を使われるのは複雑な気分だったが、今はこの男の好きにさせるしかユウが楽になる道はないのだと己に言い聞かせて我慢する。

召使いが運んできた果物を見て男は普通の食事がいいとぶつぶつ不満を言っているが、テーブルの傍に立ち、用意されたフォークを持った手は皿に奇麗に盛り付けられた果物に伸びている。美味そうな顔をして果物を食べている男を見ていると、ここではじめて食事をした日に殆ど料理に手をつけなかった男が嘘のようだ。まあ、それだけ体調が回復したということなのだろう。

「…お前、もう体調はいいのか?」
「んー、まあ、ほぼ回復したな。これといって痛みもねぇし」
「この国からはいつ、出て行くんだ?」

ぽろっと口から出た言葉にユウは慌てて口を押さえたが、一度出てしまった言葉は撤回できない。男がガラス玉を取らないまま出ていくのではないかという不安から出てきた言葉だったが、今の質問の仕方では男に早く出て行けと言っているようだ。
いつ出ていくのかと聞かれきょとんとした男は、特に表情を作るわけでもなく「出て行ってほしい?」と逆に問いかけてきた。

「な、」
「出て行ってほしいって言われても、まだ居座るけどな」

ユウに質問した男だったが、ユウが答えに戸惑う暇もなくすぐに出て行くつもりはないと発言し、にっと笑った。その顔を見て、先程の質問がユウをからかうためのものだったことを知る。
「心配した?」
「っ、心配なんてしてない。お前は、俺が解放しない限り国から出られない」

お前は奴隷なのだからとユウも忘れかけていた男の立場を男にも思い出させるが、男はけらけらと笑って両手を広げた。

「抱きしめてやるよ。おいで」
「いきなり、何、」
「拒否すんの?ガラス玉増やしていいんだ?」

文句を言ってやりたい気持ちを押さえて男の腕の中に収まると、男が楽しげにユウの背を撫で口を開く。

「実際に支配してんのは俺だけどな。俺は拒否できるけど、王女様は拒否できない」
「…ああ」

悔しくはあるが、男の言っていることは真実だ。男がガラス玉を条件に何かを要求してくれば、ユウはそれに応えるしかない。仮に、男が奴隷解放の書類をそろえるよう言えば、ユウは書類をそろえて男を解放するだろう。
落ち込みつつ男の言葉に頷き、唇を噛みしめる。そんなユウの頭を男の手がぽんぽんと優しく叩く。
ユウの体を解放し、再び果物を食べつつ男が喋る。

「まあ、王女様が本当に嫌だって思うことがあったら、嫌だって言っていい。一応、安全な場所を提供してもらってる身だからな。何かある?」
「……もう何が嫌かもわからない」

性器に入れられたガラス玉は嫌だが、それは嫌だと言ったところでどうにもならない。男との性交渉は複雑な気持ちではあるが強く嫌だと思えないし、他にはこれと言って浮かばない。男の要求の殆どは生きるために必要な、奴隷が主人にする正当な要求だし、それはユウの義務であり負担とは思わない。
「あ、そう」

だったらいい。と男がユウから果物へと視線を移す。

一体いつまでこの男との奇妙な関係は続くのだろう?
早く終わればいいと思う一方で自分ではわからない何か妙な気持ちがあるのをユウは感じていた。