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「じゃあ、このひらひらした服脱いでもらおうか?」

投げつけられた枕を戻し、ユウをベッドに座らせ、男がドレスを摘まんで笑う。
男の能力を使えば、服を脱がずともガラス玉だけ取ることができる。だが、ユウはそれを指摘することなく静かに服を脱ぎ、男の前に裸を晒した。

「手、後ろについて、足開いて」
「何でそんなっ」

洋服だけならば我慢もできたが、今男がユウに要求しているのは娼婦のようなポーズ。流石に口答えすると、男がにっこりと笑ったままベッドに座り、ぴったりと閉じたユウの足を通り抜けてユウ自身を握りこんだ。

「ひ、」
「大人しく従え?な?変な声出したら隣の部屋の世話係が来ちまうかも。いいのか?奴隷に襲われる駄目な主人って思われるぜ?それとも、自分が襲わせてるんだって言い訳する?」
「っ、ぅ……っ」

リンクに知られてしまうことと男への二重の恐怖から足を開いていくと、少しずつユウ自身を握る男の力が弱まり始めた。完全に足を開いたところで男の手はユウ自身から離れ、自分の指示通りのポーズをユウが取ったことで、男が満足げに頷く。

「そうそう。しっかり言うこと聞けよ、王女様」
「…まだ、何か指示する気か」
「んーどうしよっかねぇ?してほしい?」
「…嫌だ」
「じゃあ、しよう」

人の思い通りに動くことは嫌いなんだと言う男は先程ゴブレットを取り出したように体内に手を入れ、何かを探し始めた。ユウが少しでも動こうとすると手で制止され、ユウにはただ待つことしかできない。

「お、見っけ」

男が取りだしたのは、最初の夜にユウの体内に置いてきた瓶と同じものだった。あの夜は懐から取り出したものだと思っていたが、もしかすると今のように体の中から取り出していたのかもしれない。

「それ、」
「御察しの通りってとこかな」
「お前、またっ」
「両手出して」

あの時の苦しさを思い出し、体が男の言うとおりに動くことを拒否している。
震える手を前に出すと、男は瓶のふたを開けて中の液体をユウの指先に垂らした。液体はユウの手に触れた瞬間は薄桃色のさらさらとしたものだったが、ユウの手の温度に馴染むにつれて透明になり粘り気を持つようになった。

「指によく付けときな」
「何のために…」

ぬるぬるした液体を全ての指に絡めると、男は膝立ちになるように指示し、ユウに自慰をするよう命令した。

「一度見られてんだからいいだろ」
「………」

多数あるガラス玉のひとつを取ってもらう為だけにどこまで自分を落とせばいいのかとユウは屈辱に涙を滲ませたが、一度鼻を啜っただけで何とか涙を流すことは耐え、手を性器に伸ばす。
しかし、性器に触れようとしたところで男が待ったをかけた。

「違う違う。後ろ」
「うし…ろ…?」
「女の性器はねぇけど、穴はあるよな?」
「あ…、あっても、そんなことはしないっ」

男の言う自慰が肛門を使った自慰だと言うことに気付き、顔を真っ赤にして反論する。歴史の授業で過去の奴隷の扱いについて学んだ時、少年奴隷の体を使った男同士の性交渉があったことを教わった。その際に、存在しない女性器の代わりに肛門を使ったとも聞いた。
だが、それはあくまで過去の少年奴隷についてのことだし、ユウはそんなところを使った自慰をした覚えはない。排泄に使う場所だという認識しかなく、とても指を挿れる気にはなれない。

「あれ、やったことねぇの?」
「誰が好きこのんでそんな汚い場所弄るんだっ!…お、お前はやったことあるのかよ」
「ねぇよ。だから、王女様やれって」

あまりに自分勝手な男の言葉に、もしかしてこの男は違う世界の人間ではないのかと現実逃避をしそうになったが、あくまでもユウが言うことを聞くまでガラス玉を取るつもりはないらしい男の様子にこれ以上何を言っても無駄だと覚悟を決め、恐る恐る肛門に指を当てた。
右手中指にぐっと力を入れ、第一関節が中に入る。誤魔化すことのできない異物感に息を飲むが、指に付けた液体の所為かそこまで挿入に苦しむことはなかった。

「指動かして。慣れたら、指増やして」
「…ん、」

男に言われるままに指を動かすと、少しずつ指はユウの中へ入っていき、これと言った痛みもないまま付根まで中指がユウの中に埋まる。二本目も入れる時は違和感があったが、先が入ってしまうと後は簡単に入ってしまう。

「そんなに痛くねぇだろ。そういう効果もあるんだよな、その薬。あっちの効果は表れるまでに時間がかかるけど、沈痛作用は結構早く効くように出来てんだって。まあ、早く効く分強い痛みは誤魔化せねぇんだけどな」

ベッドから降り、再び床に座った男がユウを見上げる。男は座っただけで何かをしたわけではない。それなのに、床に座る男と目があった瞬間、ユウは己の股間に僅かだが熱が籠るのを感じた。

「感じた?」
「なっ、ぁ…、」

男がこちらを見ていると言うだけで熱が高まり、気付けばユウ自身はほんの少しだが勃ち上がっていた。
強い羞恥に襲われて指を抜こうとしたユウだったが男に自慰を続けるよう言われ、抜きかけた指を再び深く埋め込む。男を意識しないよう指を動かすが、徐々に息は荒くなり、ユウ自身は勃ちあがっていく。

男がベッドに座っている時は、やらされている、見られているという感覚しかなかったが、男が床に座りユウを見上げる形になったことによって、ユウのなかに見せているという感覚が生まれたのだ。それがユウの興奮の原因だった。
やらされている、見られているという考えしかなかった時は兎に角男の言うことを聞き、ガラス玉を取ってもらうと言う意思が強かったが、見せているという考えが生じたことによりガラス玉を取ってもらうことしか考えていなかった頭に自慰をしているのだと現状を理解する隙間ができた。本来ならば他人に見られないよう行う行為を強要され、見られ、見せているという事実をユウの頭が性的興奮と結び付けてしまったのだ。

「あっ、…ふ、ぅ…」

勃ちあがった性器を左手で握り、上下に扱く。男はそんなユウの様子を見てひく、と眉を動かしたが、何も言わずにユウの自慰を静観している。
指を入れた肛門が徐々に熱くなり、ぐちゅ、と音を立て始めた。初めて聞く音にユウの顔はみるみる赤くなり、そんな顔を男から隠すようにユウは膝立ちの姿勢を崩し、枕に顔を埋めた。それによって腰を突き立つような形で自慰をすることになってしまったが、ユウは気付いていない。

「んっ…はぁ…」

ガラス玉を尿道に埋め込まれているユウはいくら自慰をしても射精することができない。いつまで続ければいいのかと男に問うこともできないまま射精できない苦しさと終わらない快感に喘いでいると、ギシ、と音がして冷たい手がユウの右手を掴み、肛門から引き離した。

「力抜いて」

指が抜け、ほんの少しだけ開いた肛門に再び異物が埋め込まれる。ユウの指よりも質量のあるものだったが、ユウの指が液体を塗りつけた為に突っかかることもなくユウの中へ入っていく。それが男の指だと気付くまではそう時間はかからなかった。

「……ぁ、あっ、ひ、ぃ、…あぅっ!や、やだっ」

男の指はユウの指とは全く違い、何か別の生き物のようにユウの中を掻きまわした。己の指では微塵も感じることのなかった、妙な、しかし快感に近い感覚がユウを襲い、耐えられない。

「待っ、」
「待たない」

男の指が中の一点を掠めた瞬間、ユウの体は確かな快感を感じ、次いで射精したような感覚に襲われた。だがその直後に射精できずに性器内に閉じ込められた白濁が暴れ、苦しさに息を詰まらせる。

「っ……、…ぅ…っ、は、」

暫くの間男はユウが上手く呼吸出来ていないことに気付かずユウが強く反応を示す一点を責めていたが、ユウの様子がおかしいことに気付くとその手を緩め、枕に顔を埋めていたユウの上体を起こして男と向かい合わせ、ユウの頭を己の肩に乗せさせた。

「息辛そうだな。平気?」

平気だと見栄を張る余裕はない。男の肩の上で何度も首を横に振ると、男が優しい息を漏らし、挿入していない方の手でユウを落ち着かせるようにゆっくりと震える背を撫でた。
背を撫でる手の動きに合わせて呼吸をするよう囁かれ、意識して男の手に合わせて呼吸する。リズムが合うにつれて徐々に呼吸しやすくなり、いつの間にか中に入った男の指が止まっていることに気付く。

「もうそろそろ動いていい?」

ユウが小さく頷くと男の指が再びユウの内部を弄りだすが、その動きは先程のように責めるといった強いものではなく、ゆっくりとした優しいものだった。だが、確実にユウの快楽のポイントを刺激し、徐々にユウの息が上がる。
まるで男と生の営みをしているようだと錯覚しそうになるが、男自身は全く反応を示していない。
男が何を考えてこのような事をしているのかわからないまま、時間だけが過ぎ、射精できない苦しみがユウの中に募る。

「…もう、」
「イきたい?」

ユウが言おうとしたことがわかったのか、ユウの言葉を遮るように男がユウに問う。肯定の代わりに男の着ている服をくしゃりと掴むと、背中に添えられていた男の手がユウの頭を撫でた。

「じゃあさ、ティキって呼んでみて」
「…何、」
「俺の名前」

ティキ。初めて知った男の名前を頭の中で繰り返し、声にする。

「ティキ……イきたい、」

声を出したユウ本人が驚くくらい弱弱しく、息の混じった声だったが、男の肩がぞくっと動き、男の口から然も楽しそうな笑い声が出てきた。
ユウの視界がぐらりと動き、背にはベッドの柔らかな感触が伝わる。目の前には男の顔があったが、男の後ろには天蓋が見えた。
男の顔がユウに近づき、耳のすぐ近くで男のと息を感じる。顔と共に押し当てられた男の股間は先程反応していなかったのが嘘のように硬く、洋服の中で窮屈に勃ちあがっているのがわかる。

「いくら綺麗な顔してるって言っても、結局は男だし、勃たねぇし、やっぱ無理かと思ったけど……いいね、改めて気に入ったよ、王女様」

顔を離し、改めてユウを見る男の眼は野生の獣のように鋭い輝きを放ち、だが、それがどこか蠱惑的な魅力を帯びている。
男がズボンと下着をずらして自身を取り出し、ユウの足を掴んで慣らされた肛門に宛がう。

「指で慣らしはしたけど、ちょーっと、痛いかもな」
「っ、ん…」

ゆっくりと入ってくる指よりも太く、熱いモノに体を固くするが、その度に男は挿入を止め、ユウの頭を撫でたり優しい言葉をかけたりとユウの体を解し、無理に進めることはなかった。しかし、それでも男のモノを受け入れるには慣らし切れていなかったらしく、途中でぶち、と音がした。
「痛、」
「悪いね、裂けちまった」

口では軽く言うが、そう言う男の顔は本当にすまなそうな顔をしていて、怒ろうと言う気にもなれない。
完全に根元まで入ると男が静かに呼吸し、今度は根元まで入ったものを先端ぎりぎりまで引き抜いた。そして、先だけユウの中に残したソレを再びユウの中に、先程より少し早いペースで埋める。出し挿れを繰り返し、徐々にそのテンポは速くなっていったが、ユウはそれを特に辛いとは感じなかった。

「は、ぁ……んんっ、」

元々排泄に使う場所だ。男性器を出し挿れされることに慣れたと言うわけではないし、異物感ははっきりとあるのだが、それでも男が指で探し当てた良いところを掠める度に言い知れぬ感覚がユウの中で生じて女のような声が出る。自分の耳に入ってくるその声が恥ずかしくて両手でシーツを握りしめ、唇を噛んで耐えようとしたが、男の指が固く閉じたユウの唇をいとも簡単に開けてしまう。

「噛むなら、俺の指噛んでな。唇は駄目」
「や…だ、」
「口が切れたらどうすんの。食いもん食う時苦労するぞ?」

ほら、と言いつつ男が己の指をユウの口にあてるが、男の指を傷つけてしまうかもしれない不安に首を横に振るしかない。
普段はユウが叩こうとしてもすり抜けてしまう男をこういった形で―自らの快楽から生じてしまう声の為に―傷つけるのは嫌だった。

「…じゃあ、何もしないで我慢できる?」
「…わ、から、な……っ、ぁっ」
「無理か。……まあ、王女様初めてだし、早めに終わらせるかね」

残念そうに肩を竦める男は片手でユウの腰を掴むと、ただ出し挿れを繰り返すだけでなくユウが快感を感じる場所を意図的に突くように男自身を動かし、もう一方の手でユウ自身を扱き始めた。

「ふっ、あぁっ、…ひっ、は、あぅっ!」

性器を扱かれることで漸く確実な快感がユウの体を走り、絶頂が近づく。男が与える刺激に素直に身を委ね、解放の時を今か今かと待ちわびていると、とうとうその時が来た。
男が一番強くユウの中を突き、ぎゅっと性器を握られた瞬間、強い痺れとともに久方ぶりに性器が白濁を放ち、絶頂による締め付けで男のモノが中で震えた。

「ひぅっ」
「っ、危な」

ずるりと男がユウの中から出て、シーツに射精する。

「タオルと換えのシーツってある?」
「…棚の中、」

同じ射精をしたというのに、ユウがぐったりとして余韻に浸っているのに対し、男はすぐに乱れた服を整え、ベッドから降りてしまった。
男が棚を開けてシーツにタオルを取り出しているのをぼんやりと見て、先程まで感じていた温かさが無いことに一抹の寂しさを感じつつ、ユウは疲れに誘われて目を閉じた。